特定動物レスキューファイル

リュウキュウヤマガメ保護の現状と課題:沖縄本島北部での取り組み

Tags: リュウキュウヤマガメ, 絶滅危惧種, 沖縄, 保護活動, 外来種対策

リュウキュウヤマガメとは

リュウキュウヤマガメ(Cuora mouhotii okinawensis)は、リクガメ科イシガメ亜科に属する半水棲のカメです。ベトナムやラオスなどに分布するモウホウオウギガメの亜種とされていますが、沖縄本島北部に隔離分布しており、形態的特徴や生態に違いが見られます。世界でも沖縄本島北部の限られた地域にのみ生息する固有亜種であり、その希少性から国の天然記念物に指定されています。

体長は20cm程度で、日本の在来カメ類としては比較的小型です。背甲の後縁が鋸状になっているのが特徴で、主に森林内の地上を徘徊し、昆虫やミミズなどの小動物、植物の葉や果実などを食します。繁殖活動は主に夏から秋にかけて行われ、産卵場所として森林内の土中に穴を掘る習性があります。

絶滅の危機と保護の必要性

リュウキュウヤマガメは、環境省のレッドリストでは絶滅危惧IA類(CR: ごく近い将来における野生での絶滅の危険性が極めて高いもの)に分類されています。その生息数は減少傾向にあると考えられており、喫緊の保護対策が求められています。

リュウキュウヤマガメが絶滅の危機に瀕している主な要因は複数あります。第一に、生息地である沖縄本島北部の森林環境の破壊や分断です。森林伐採、道路建設、ダム建設などにより、生息に適した場所が失われたり、個体群間の移動が妨げられたりしています。

第二に、交通事故(ロードキル)です。森林内を通る道路で、餌を探したり移動したりする際に車に轢かれる事故が多発しています。特に雨天時や夜間に活動が活発になるため、ロードキルに遭うリスクが高まります。

第三に、外来種による捕食や競合です。移入されたフイリマングース、ノネコ、ノライヌなどがリュウキュウヤマガメを捕食することが確認されています。また、特定外来生物であるオオヒキガエルとの競合も懸念されています。

最後に、違法な捕獲や密猟も脅威の一つです。希少なカメであるため、ペット目的などで捕獲されるケースが報告されています。

これらの複合的な要因により、リュウキュウヤマガメの個体数は減少し続けており、その固有な生態系における役割を維持するためにも、包括的かつ効果的な保護活動が不可欠となっています。

現状の課題と具体的な保護活動

リュウキュウヤマガメの保護活動は、主に環境省、沖縄県、研究機関、そして多くのNPO/NGOや地域住民の連携によって進められています。現場では、以下のような具体的な取り組みが行われています。

1. 生息環境の保全・再生

やんばる地域の森林そのものの保全が最も基本的な活動です。2021年には「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」が世界自然遺産に登録され、リュウキュウヤマガメの主要な生息地であるやんばるの森の保護に向けた国際的な関心も高まっています。開発行為に対する厳しい規制に加え、分断された森林地域間を動物が安全に移動できるよう、道路下に動物用トンネル(アンダーパス)や橋(オーバーパス)を設置する「グリーンコリドー」の整備も一部で進められています。

2. ロードキル対策

ロードキルはリュウキュウヤマガメを含む多くのやんばるの希少動物にとって深刻な問題です。対策として、注意喚起の看板設置や、特定の時間帯(主に夜間)における車両の通行規制などが実施されています。また、交通事故発生情報の収集は、対策の効果を評価し、優先度の高い場所を特定するために極めて重要です。地域住民やボランティアによるロードキル情報の提供は、行政や研究機関のデータ収集に大きく貢献しています。収集されたデータに基づき、より効果的なアンダーパスの設置場所の検討や、啓発活動の強化が行われています。

3. 外来種対策

フイリマングース、ノネコ、オオヒキガエルなどの外来種駆除は、リュウキュウヤマガメを含む在来種の捕食圧を軽減するために集中的に進められています。罠を用いた捕獲や、モニタリング調査(自動撮影カメラ、DNA分析など)による生息状況の把握が行われています。マングース駆除事業は長期にわたり実施されており、その効果として、一部地域ではマングースの密度が低下し、リュウキュウヤマガメなどの在来種が確認される頻度が増加しているといった報告もあります(例えば、環境省や沖縄県のモニタリング報告書などを参照)。

4. 個体数および生息状況のモニタリング

リュウキュウヤマガメの正確な生息数や分布域を把握することは困難ですが、様々な手法を用いてモニタリングが行われています。定期的な目視調査や、自動撮影カメラを用いた調査が主流です。近年では、糞に含まれるDNAを分析することで、個体を特定したり、移動経路を推定したりする非侵襲的な手法の研究も進められています。長期的なモニタリングデータの蓄積は、個体数トレンドの把握、保護活動の効果判定、新たな脅威の早期発見に不可欠です。現場での調査協力やデータ収集を担うボランティアの役割は非常に重要です。

5. 傷病個体の救護とリハビリテーション

ロードキルなどで傷ついた個体や、違法に捕獲された個体は、関係機関や民間の保護施設で救護され、治療やリハビリテーションが行われます。健康を回復した個体は、生息環境が整った場所を選んで再び野生に戻されます。救護活動における連携体制の構築と維持は、一頭でも多くの個体を救う上で重要です。

6. 啓発活動

地域住民、特に子どもたちや、やんばるを訪れる観光客への啓発活動も積極的に行われています。リュウキュウヤマガメの希少性や生態、直面している危機を知ってもらうことで、ロードキル防止への協力や外来種問題を認識してもらうことを目的としています。地域のイベントでのパネル展示や講演会、学校での出前授業、看板設置、パンフレット配布などが行われています。

今後の展望と活動への参加

リュウキュウヤマガメの保護には、長期的な視点での取り組みが不可欠です。生息環境のさらなる保全・再生、ロードキルや外来種対策の継続・強化に加え、気候変動が与える影響への対応や、地域住民とのさらなる協働体制の構築が今後の課題となります。

現場で活動されている皆様にとって、これらの取り組みは日々の努力の積み重ねであると存じます。特に、ロードキル発生情報のリアルタイムな共有システムへの参加、モニタリング調査への協力、外来種に関する情報の提供、地域での啓発活動への参画などは、保護活動を支える重要な力となります。

リュウキュウヤマガメ保護に関するより詳細な情報や最新の研究成果については、環境省や沖縄県の自然保護担当部局のウェブサイト、やんばる野生生物保護センター、関連する研究機関やNPO/NGOの報告書やウェブサイトなどを参照されることを推奨いたします。多くの団体がボランティアを募集しており、現場での活動に参加することも可能です。

まとめ

沖縄本島北部の宝であるリュウキュウヤマガメは、生息環境の破壊、ロードキル、外来種など、多くの脅威に直面しています。しかし、行政、研究機関、NPO/NGO、そして地域住民が連携し、生息環境保全、ロードキル対策、外来種対策、モニタリング、救護、啓発といった多岐にわたる保護活動が展開されています。これらの活動は、一つ一つの情報収集や現場での作業によって支えられています。リュウキュウヤマガメが未来にわたってやんばるの森で生き続けられるよう、皆様の継続的なご理解とご協力が何よりも重要となります。